2001年9月に起きた米国同時多発テロ事件以降、海外旅行は世界情勢の影響を大きく受けている。テロ事件後、徐々に回復の兆しを見せ始めた海外旅行需要はイラク戦争、重症急性呼吸器症候群(SARS)により、これまでにない厳しい状況を迎えた。この間にも方面別では昨年10月にバリ島でディスコ爆破テロ事件、12月にはグアム島で台風惨禍があり、海外旅行は大きな痛手を受けた。とくに、グアムは幾重ものマイナス要因を抱えたが、現地観光関係者の努力と日本側の観光関係者の協力により旅行需要回復への足並みは揃った。これまでの苦難を乗り越え、マイナスをプラスに変える新しいデスティネーションへと、グアムが再生を遂げることが期待される。



 海外旅行需要の不振は今年のゴールデンウィークの需要動向を見ても、はっきりと表れている。JTBの旅行動向調査によれば、ゴールデンウィーク(4月24日〜5月11日)の海外旅行者数は、前年同期比35.9%減の31万4000人と1992年の31万1000人のレベルにまで落ち込む見通しだ。景気低迷、イラク戦争、重症急性呼吸器症候群(SARS)、さらには今年のGWは曜日配列に恵まれないという悪条件が重なった。
 しかも、実績は旅行動向見通しよりも数字は毎年落ちており、現在進行形であるSARSによる海外旅行不安がさらに一般消費者に広がれば、30万人台を割り込むことが危惧される。その一方で、最近の傾向である予約の間際化に期待する声もあり。今後のSARSの広がりが鍵を握っている。
 JTBによるとGW期間中の総旅行人数は前年同期比3.2%減の2180万2000人。国内旅行は2.5%減の2148万8000人で、景気低迷と海外旅行不安の中で、国内旅行、とくに関東、甲信越、東北などの国内1泊2日程度の旅行へのシフトが予想される。
 海外旅行を方面別に見ると、アジアは29.5%減の15万9000人で、外務省から「渡航の是非の検討」と「不要不急の渡航延期」勧告が出された香港は78%減の3000人と激減。中国も同様に広東省に勧告が出たことで37%減の3万8000人に落ち込む見通し。韓国は24%減の5万2000人。
 外務省から「十分注意」の危険情報が出された台湾は46%減の1万5000人、シンガポールは38%減の8000人、カナダは50%減の5000人と4〜5割減。
 北米は34.9%減の8万4000人で、内訳はハワイが30%減の3万人、グアム・サイパンが16%減の2万6000人、米本土が49%減の2万3000人。欧州は25.8%減の4万9000人。
 大洋州は25.9%減の2万人で、オーストラリアは24%減の2万人、ニュージーランドは25%増の3000人。
 主催旅行中止の香港、広東省は激減、「十分注意」発出地域は4〜5割減、米本土が5割減、その他の地域は海外旅行不安の中で2〜3割減といった影響が出ている。
 その中で、グアム・サイパンだけが1割台の減少にとどまっている。この中には香港等からの変更が含まれていると見られるが、各方面が2割以上落ちているのに対して、1割台にとどまっていることは、ことSARSに関してはグアムの安全性が旅行者には認識されていると見ることもできる。


パッケージ、1月は台風影響
4〜6月のグアム予約4割減に

 一方、日本旅行業協会(JATA)がまとめた主催旅行会社5社(JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、ジャルパック、阪急交通社)の海外パッケージツアーの2003年1〜3月実績によると、5社平均で、1月実績は前年比24.2%増、2月は12.4%増、3月は15.1%減で推移しており、3月はイラク情勢やSARSによる影響から前年実績をも割り込んだ。1、2月についても、前々年比では依然落ち込んでいる模様。
 いずれの方面も落ち込んでいるが、とくに、ヨーロッパ(1月47.6%増→2月25.2%増→3月17.3%減)、アジア(同じく21.2%増→17.9%増→19.8%減)の落ち込みが激しく、グアム・サイパンも1月7.2%減→2月13.7%減→3月27.4減と月を追う毎に数字は厳しくなった。
 また、4〜6月の予約状況は、全方面で4月が36.9%減、5月が49.9%減、6月が36.6%減と非常に厳しい。ただ、GWの曜日配列も影響している5月に比べ、6月の予約は若干数字がよく、イラクおよびSARS沈静化への期待感と見ることもできる。
 方面別では、オセアニア、ハワイが比較的健闘しているが、アジア(4月49%減→5月65.2%減→6月45.3%減)、中国(同じく33.1%減→58.1%減→38.4%減)の落ち込みが非常に大きく、SARSの影響をもろに受けている。とくに中国は、1〜3月の実績が非常に好調で、3月も18.6%増を記録していた。
 そうした中で、グアム・サイパンの4〜6月の予約状況は、4月40.5%減、5月43.0%減、6月44.5%減と4割台の落ち込みで推移している。


グアム日本人訪問者数の推移
グアム SARS代替地に

 この中で、実際のグアムの日本人訪問者数はどうだったのか。グアム政府観光局(GVB)の調べによれば、今年は1月4万2066人、2月5万4676人、3月5万2728人だった。これを前年同月比、前々年同月比で見ると、前年同月比が1月32.8%減、2月20.2%減、3月33.5%減、前々年同月比が1月56.6%減、2月43.0%減、3月47.6%減となり、米国同時多発テロ以前の4〜5割、米国同時多発テロ後の6〜7割の訪問者数で推移している。
 4〜6月も主要5社ホールセラーのパッケージツアーの予約状況を見る限り、前年同月比6割程度で推移すると見られるが、アジア地域がSARSの影響を相当受ける中で、グアムがその代替地になる可能性もあるとみられる。
 グアムの1999年以降の日本人訪問者数の推移を見ると、例年3月と8月をピークとする7、9月の3カ月がオンシーズン期となる。それが、2001年は9月の米国同時多発テロの影響で10〜12月に大きく落ち込み、そのパターンが崩れた。翌2002年は99年レベルにまで近づき、12月の台風の影響で大幅なダウンを余儀なくされた。
 今年の1月以降、台風からの再生を目指すグアムだが、これまで一つの山だった3月はイラク戦争の影響で初めて前月よりもダウンした。今後、どこまでリカバリーできるだろうか。
 現在進行中のSARSの広がりが、海外旅行全体にどこまで影響を及ぼすかが鍵となるが、夏場の回復を業界は期待している。感染症という特性を考えると、不安は急速に広がるが、解決策が具体化すれば、その回復は早いと考えられる。
 間際化が進行する現在の海外旅行の傾向をみると、一旦回復の道が開かれれば、急速に上向くだろう。それを予測し、事前に需要回復策をアピールすることがグアムの日本人訪問者を引き上げる短期的な方策となる。
 一方、長期的には、海外旅行需要の低迷が経済の悪化、景気が回復しないことにあることを前提にしなくてはならない。
 イラク戦争が終結しても確かにテロの脅威は残る。しかし、戦争はとりあえず終わった。SARSもいずれは沈静化する。それを踏まえて、グアムのデスティネーションとしての魅力を開発し、消費者、旅行会社に訴えていく必要がある。
 これについては、グアム政府観光局(GVB)が最も力を入れている。
 GVBでは、夏の旅行需要キャンペーンを実施することを決めた。ファミリーにターゲットを絞り、旅行会社向けのプロモーションと一般コンシューマー向けの現地抽選会などを7〜9月に実施する。このために、5月中旬に東京、大阪、名古屋でカマチョ知事を団長とする観光ミッションが来日、サマーキャンペーンをPRする。


グアム流リラクゼーション提案

 日本旅行業協会(JATA)新町光示会長を団長とするJATAミッションが、去る2月にグアムを訪問、グアム州政府知事と現地商工会議所代表および観光関連団体等との意見交換会で新町会長は、「これを機会に、グアムならではというものを見直した方がいいのでは」とし、「グアムの自然や文化を体験できるものを構築し、リゾートとしてのグアムのあり方を中長期的に見直してはどうか」と提案した
 グアム側でも、「グアム流のリラクゼーション」の創造など、同様なプランを構想しており、GVBは2003年の活動方針として、「Enjoy Guam Way! グアム流のリラクゼーション方法の提案」をテーマとしたマーケティング活動を実施することを決定した。
 厳しい状況ではあるが、今年の日本人訪問者数をテロ事件以前の2000年レベルの100万人以上に戻したい考えで、ターゲット別にグアムならではのリラックスできる観光素材を具体的に提案することで、需要増を図る。
 ターゲットについては、20代後半を中心とした実家から会社に通う独身層「パラサイト・シングル」や小学校低学年までの子供を持つファミリー層、子育てから開放された主婦層「キッズ・フリー・ミセス」やウェディング需要を想定。特にその中でもウェディングは、台風に伴うキャンセルや延期で、昨年は念願の海外挙式年間1万組突破は果たせなかったが、平均の同伴者数が16名と大きなマーケットに成長してきている。
 素材については、スポーツ・イベントや参加型のフェスティバル、ショッピングやグアム本来の自然やスパなどのリラクゼーションなどを中心に具体的な素材の提案を行う。例えば、スポーツ・イベントでは市民マラソンやプロ・アマのゴルフトーナメント、フェスティバルでは観光客が気軽に参加できるカーニバルやパレード、ショッピングでは今年1月に実施したイベント「バーゲン・グアム」など、より各ターゲットに訴求可能なイベントを計画する。


日本人の旅行志向に対応

 また、熟年シルバー層や修学旅行需要などの取り込みも引き続き積極的に図っていく計画。その他、日本人のグアムでの平均滞在日数で、4泊以上が全体の42%と4割を超えるなど、ロングステイのマーケットも着実に増えており、こうした旅のスタイルの提案にも積極的に取り組む。
 グアムが日本人にとって、最も近いリゾート地であることは変わりない。各国政府観光局の中で、これほどまでに、需要キャンペーンを実施するところは例を見ない。
 幾度の苦難に遭いながらも、GVBのこうしう゛ぃしとrた地道な努力は必ず結実する。座して待っているようなデスティネーションは、いずれは衰退する。GVBのように、常に日本人の旅行志向の変化に対応し、マーケティングを深め、それをプロモーションに反映する行動力が求められる。
 よく、需要が落ち込む時も、回復する時もグアムから始まると言われる。グアムの旅行需要が戻れば、海外旅行全体が回復する。その時のために、グアムが新たなリゾート地として再生することを期待したい。