18歳以上の知的障害者を対象とした入所型の知的障害者更生施設「青葉メゾン」(横浜市青葉区)は、昨年11月28日〜12月1日の3泊4日でグアム旅行を行った。メンバーは、歩行が困難な重度障害者も含む施設入居者(以下利用者)74名と、職員・援助スタッフ58名の計132人。利用者の家族を含まずに、このような大人数の障害者団体を受け入れたのはグアムでもまれなケース。施設創立以来の念願であった利用者全員での海外旅行を果たし、全員が無事に帰国した。


中西晴之 施設長(左)と脇田一隆 指導主任
 施設長の中西氏は、今回の旅行を立案したことについて「生活の毎日を施設で過ごしてい
ると、生活が惰性になりがちになる。それを防ぐためにも年に2回は旅行へ出ており、今回の海外旅行は、創立7年目を迎え職員や利用者ともに慣れてきたことから計画した」と話す。同施設は、ハンディキャップを持つ人が一市民として生きてゆくことを保障し、介護・援助・指導・支援する「場」として機能することを基本理念としている。海外旅行もその一環として、なかなか家族単位では障害者の旅行が難しいことから企画された一面もある。
 同氏が「旅行のしおり」に寄せた言葉に、“3泊4日、仲間に添い、仲間と寝食を共にし、仲間を見つめ、仲間を守るという極めて当たり前な、極々基本的な、この仕事の原点。この原点が6年の歳月のなかで少し陳腐となり、垢にまみれてはいないだろうか”と書いているが、今回の旅行を「原点に立ち返る旅」と位置づけ、あえて困難とも言える海外旅行の実行に踏み切った。
 「青葉メゾンは横浜市の中でもとくに重度の障害を持つ人が入る施設。知的障害に加え、身体障害も持つ利用者が多く、保護者や他の施設からもよく(青葉メゾンが海外に)行けたなという感想があった。その分だけ職員の達成感も大きかった」と振り返る。


海外旅行は最終目標
バリアフリーの充実が決め手に

 中西氏は、グアム旅行を企画したことについて「施設の設立当初から最終目標は海外に行くことだった」と言う。そのために、計画は4年前から始め、まずは近場の1泊旅行を行い、次に神戸へ旅行、昨年には初めて飛行機に乗って2泊3日で長崎へ行くなど、海外へ向け徐々にステップアップを行ってきた。
 目的地を選ぶにあたっては、もちろん飛行機の長時間フライトが障害者にとって厳しいという点もあるが、「時差によって、てんかん薬などの投薬が難しくなるというのが、目的地を選ぶのに重要だった」と話す。そのことから、1,フライト時間が短い、2,日本との時差が少ない、3,バリアフリーが充実している、の条件を満たす場所を探し、その条件を満たすデスティネーションとしてグアムと韓国が候補に挙がった。最終的にグアムに決めたのは、時期的に気候が暖かく、飛行時間は約3時間半、時差も1時間であることや、島内のバリアフリーが充実しているということから、今回のグアム旅行が決定した。
 現地の観光では、障害の程度により3グループ・8班に分け、それぞれの身体に無理がないようなコース設定。歩けるグループは積極的にバスから降りるようにし、恋人岬やアプガン砦、スペイン広場、チャモロビレッジなどを訪れたほか、イルカウォッチングやサブマリンツアー、グアムプレミアムアウトレットでのショッピングを体験。また、車椅子を利用するグループは、リフトバスを用意し、恋人岬やマイクロネシアモール、アンダーウォーターワールドなどを訪れ、それぞれがグアム旅行を満喫した。

グアム観光の奥深さ
ニーズに合わせた素材を提供

 コースの選定を担当した、青葉メゾン指導主任、脇田一隆氏にグアムについての感想を聞くと、「本来ならプールやビーチで日光を浴びるだとか、ショッピングをするというのがグアムのイメージだが、今回はそれができない利用者もいるので、下見の段階で他の観光ポイントを探した。その結果、グアムの自然を体験できるリバークルーズや、手軽に海中の世界を見ることができるアンダーウォーターワールドなどがあることを知り、イメージしていたよりもグアム観光がもっと奥深いと感じた」と語る。海だけでなくさまざまなニーズに合わせた観光素材が提供できるのもグアムの魅力だ。
 さらに、以前に別の施設で障害者のハワイ旅行を体験した中西氏によると「ハワイの時よりもグアムの方が安心できた。ハワイは人が多く、迷子にならないか心配が絶えなかったが、グアムはそこまでの人混みが無かったのが良かった。さらに、どこへ行っても大抵日本語が通じるのも安心できた」と話す。
 また、滞在中の食事について聞くと「日本の食事と大きく変わることがなかったので、全く問題なく、むしろ日本や施設内では食べられないような物が口にできて、生徒たちも喜んでいた」とのことで、とくに、宿泊したアルパンビーチタワーでは、食事の出し方やバイキングでの皿の置き方、料理はのどに詰まりやすいものは避けてもらうようリクエストするなど、細かな一つ一つの要望まで応えてくれたという。




薬に関しての問題が最大の不安要素
サポート態勢の整備が新規需要を喚起

 今回の3泊4日という日程については、「薬を持ち込む量や、参加者の体調面からもこれ以上の日程は難しい」と説明する。なかでも、薬に関しての問題が障害者にとって大きく、持ち込む際に医師の英文診断書が必要となることや、海外に持ち込めない薬を事前に調べなくてはならないなど、とくに神経を使ったという。
 さらに、日本では認可されていても外国には持ち込めないといったケースや、薬の量も個人としては問題ない範囲でも、障害者の団体では職員が一括して全員の薬を所持するという場合がほとんどなので、税関で引き留められるケースがあるという。
 障害者に限らず高齢者などは薬を服用している場合が多いが、これらの人々が旅行を控える理由として、薬の問題と現地の医療体制に不安があるということが挙げらており、その点を解決すれば潜在的な需要を掘り起こせるのではないかという意見もある。現在、一般的な病気の症状に対しては現地の医療機関で治療ができ、言葉の問題も旅行会社などが医療通訳サービスを提供しているが、今後は、安
心して旅行ができるよう、さまざまな状況に対応できる医療関連の体制づくりに、政府や観光局、旅行会社などが一体となって取り組んでいく必要があるだろう。

リフトバスで島内を巡ることもできる
優遇措置の標準化を
道筋をつければさらに行きやすく

 今回の旅行に際しては、グアム政府観光局も全面的に協力をし、障害者団体を取り扱った経験のある旅行会社の紹介や、グループの出入国がスムーズにできるよう入国審査時の優先手続き、検査の簡素化といった便宜を図るなどしてグループを支援した。そのおかげで、出入国時のトラブルはほとんどなかったと言う。
 一方、今後の課題として意見が出たのは、パスポートの申請の仕方や出入国時の免除できる範囲がどこまでできるのかなど、障害者向けの段取りがまだしっかり決まっていないことだ。脇田氏も、「道筋ができていれば、もっと行きやすくなると感じた。今回は(海外旅行が)初めてということもあったが、観光局や旅行会社に対し、こちらから聞いて初めて教えてもらうことが多かった」と話し、出入国時の便宜が特例ではなく標準化されることや、障害者向けの専用パンフレット等があればさらに旅行者は増えるだろう。


旅行会社に求めるもの
「まずはよく知ってもらうこと」


 も今回、旅行の手配を担当したのは近畿日本ツーリスト。しかし、始めからすんなりと事が運んだ訳ではなく、最初の見積りでは価格が折り合わなかったことから、一度は他社にも見積りを依頼。最終的には、これまで同施設の旅行を手がけてきた近ツーに落ち着いたが、特別な団体だからといって一方的に代金が割高になる傾向は、もはや過去のこととなっている。
 脇田氏は、旅行会社に求めることとして「何よりも利用者の健康と安全が最優先であることから、まずは施設や利用者のことをよく知っていてもらいたい。また、利用者それぞれに細かな配慮が必要なので、たくさんの要求を出さざるを得ないことを理解してもらいたい。」と話す。旅行会社を選ぶ時点で、実際に施設で研修をしたいという申し出をした会社もあったとのことだ。




旅行を終えて

 最後に、グアムでの旅行中に障害者ということで特別な目で見られるようなことはなかったかと中西氏に質問したが、「そのようなことは全く無かった。むしろ、日本よりも現地の人はフレンドリーで、どの施設に行っても歓迎された」と答え、さらに障害者の旅行について「昔とは変わった」と話す。
 同氏は、「障害者は外に出なくていいとか、旅行なんて行かなくていいというような風潮が以前にはあったことも事実。このように障害者団体が海外旅行をできるようになったのも、つい最近のこと。変わった末にグアムがあった」と語り、今回の旅行の成功で、青葉メゾンの利用者や他の職員も「海外旅行ができる」という自信が持てたという。
 また、脇田氏が利用者たちに今回の旅行の感想を聞いたところ、「いつもなら誰かの意見に同調するだけが多かったが、今回は『あそこが良かった、ここがきれいだった、あの食べ物がおいしかった』など、一人一人が違うことを言った」と感想を述べ、利用者たちにもかけがえのない思い出になったという。この海外での経験を日常生活の中で活かし、その成果を確かめるためにも、数年後にもう一度海外へ行こうという目標ができたとのことだ。
 写真に写る彼らの笑顔を見ると、心から旅行を楽しんでいるのが分かるだろう。グアムがバリアフリーで、ホスピタリティに溢れるデスティネーションであるということを、その笑顔から感じることができる。