過去を捨てる(99年11月29日号)
機会があって、イトーヨーカ堂の鈴木社長の講演を聞いた。業界は違えど、鈴木社長の講演は参考になる部分も多かったので、少し紹介しよう。講演のテーマは「敗軍の将、兵を語る」。ヨーカ堂は中間決算で減益になったため、鈴木社長は自らを敗軍の将と言う。一方で、子会社のセブン―イレブンは増収増益を続けている。鈴木社長は「今さら景気がどうのこうのと言っても仕方がない。業績を上げるには自分たちが挑戦と努力をするか、しないか」と断じている。ヨーカ堂が減益になった最大の理由は「マーチャンダイジング(商品政策)」の弱さにあったという。つまり「過去の成功体験に頼って問題解決をした」ことで、ヨーカ堂であっても「過去の体験を捨てる」ことができなかった。具体的には、一昨年と昨年の「売れ筋」内容を比較すると、半分以上が売れ筋ではなくなり、これまで経験したことがないほどの「消費者ニーズの変化の早さ」についていけなかったことが敗因と語る。これは、どこの業界にも当てはまる話だ。旅行商品もFIT化の波で大きく変わってきており、商品サイクルも六カ月から三カ月と消費者ニーズを見ながら短くなってきた。けれども、商品造成においては、過去を捨てることは難しい。ヨーカ堂は一九七二年に上場、七四年にセブン―イレブン一号店をオープンした。当時、周りのほとんどが反対する「逆境」の中でセブン―イレブンを始めたが、その時の目標は「日本で一番短い期間で上場会社になろう」ということだった。それは実現したが、成功の要因はヨーカ堂から人を回すことができず、新聞募集で他業界から人を集めたことだと言う。小売業界とは全く発想の違う人達が「商品政策」をしたこと、つまり過去を捨てたことが成功につながった。旅行業界も同様の時期に来ていると思う。業界でも専門学校でも過去の体験を聞くことに、若い業界人や学生は辟易している。過去の体験が重要な時ももちろんあるが、今求められるているのは鈴木社長の語る通り『挑戦と努力』をすることにある。(石原)
ネット販売をJVで(99年11月22日号)
運輸省がインターネットによる旅行商品販売のガイドライン策定に着手したことで、わが国でも旅行のネットショッピングが本格化の兆しが見え始めた。約款との整合性から問題は多く、クリアすべき課題は多い。対面販売を前提とする旅行業約款でインターネットによる旅行商品販売を適用しようとすれば、どうしても無理が生じる。契約時の書面交付をどうするか、取扱主任者を二四時間待機させるのかなどの問題が発生する。書面交付はネットの画面上で閲覧させると同時にプリントアウトを申込者が行う仕組みだが、今の時代にそれが必要あるかどうか。PDFファイルにしてダウンロードするとかEメールの添付書類にして送信するなど方法はあると思う。取扱主任者についてはEメールやFAX、電話で十分に対応可能だろう。また、第三種旅行業者の場合、受託販売のためクレジット決済が現状では難しいようだが、今後外資系や異業種が参入してくれば、わが国の旅行業登録制度について問題が出てくるかもしれない。一方で、インターネットによる旅行商品販売が本格化するに当たり、旅行会社が自社内でホームページを運営することに限界が見えている。販売方法が全く違うことを踏まえて、別会社化する時期に来ているのではないか。設備投資はかかるが、社内の組織改正や人事異動では加速度的に発達するインターネットは自ずと限界が来る。また、第三者の運営による旅行サイトで商品を委託販売することもその役割を終えた気がする。私見だが、旅行会社はインターネット販売に関してジョイント・ベンチャーを組むべきだと思う。大手や中堅の旅行会社が数社集まって、オンライン販売のインターネット専門の旅行会社を設立・運営する。これにより、リスク、コストは分散・明確化され、収支計画も立てやすい。しかも別会社だから専門性も発揮され、技術的にも高度化する。航空会社が合同でウェブサイトを計画する時代である。旅行会社が協調してウェブサイトを構築し、その中で競争力のある新商品を開発する時代が来ている気がする。(石原)
新市場への上場(99年11月15日号)
株式市場がナスダック・ジャパンやマザーズの誕生を契機に大きく変わろうとしている。これまでの証券取引所の一部、二部、店頭登録というどちらかと言えば、固定的な市場から資金調達を目的とする開かれた、経済の流れに任せた市場に移行する。これに伴い、ベンチャー企業を中心に多くの会社が新市場に上場していくことになろうが、旅行業界はどうなのだろう。旅行会社で上場しているのは東証一部の近畿日本ツーリスト、東急観光など一部の私鉄系で、店頭登録もHIS、ニッコートラベルなど数少ない。HISの澤田社長は「企業は上場することが使命の一つ」として、年内に東証一部に上場申請するとともに、関連会社のスカイマークエアラインズも来年以降にマザーズに上場することを明らかにしている。また、パチスロ大手メーカーのアルゼの資本傘下に入るマップインターナショナルも数年後の店頭登録を目指すとしており、新市場のナスダック、マザーズへの上場も視野に入れている。この他、SITの専門旅行会社の中にも店頭登録や新市場への上場を計画している会社もあると噂されている。新市場への上場は企業にとっても投資家にとってもハイリスク・ハイリターンだが、市場の活性化につながり、引いては日本経済の回復の切り札と期待されている。それはともかく、旅行会社が企画を売り物に良い商品を消費者に提供するためには、資金調達が欠かせない。経営基盤が脆弱な反面、ソフト産業である旅行業界はある面で大半がベンチャー企業になりうる。そうした中で、新市場への上場はハイリスクではあるが、選択肢の一つといえるのではないか。新市場に上場すれば、四半期毎の決算や会社説明会など情報開示が義務づけられる。旅行業界は年度決算を発表する会社自体が少なく、中間決算に至ってはJTB、日本旅行、阪急交通社の大手すら公表していない。その意味では、経営状況が不透明と言われても仕方がない。今後、旅行会社の中で、どれだけの企業が新市場に上場するかはわからないが、旅行業界が変わるチャンスになると思う。(石原)
航空会社値上げへ(99年11月8日号)
ホールセラー各社の上期の販売状況や下期の販売見通しをみると、各社とも取扱人数ベースでは好調に推移している。昨年同期と比べれば、海外旅行需要は回復傾向にあることは間違いなさそうだ。ただ、方面別に見ると、「安・近・短」傾向はさらに強まり、グアム、サイパンや韓国、地震はあったものの台湾などが好調に推移している。今週はミクロネシア特集だが、サイパンも昨年度から一転し、日本人観光客は戻りつつあるようだ。しかし、航空会社のイールド指向は変わっておらず、利用率が九〇%を超えた状況でも来年度にキャパシティを増やす計画を明らかにしていない。旅行会社としては席が取れないならキャパシティを増やすことを望みそうだが、旅行会社も航空会社がキャパシティは現状維持でいいとしているところが以前とは違う。なぜなら、「ここでキャパシティを増やすと値崩れを起こす心配があるから」と指摘する。ようやく価格が安定してきた段階で、供給過多になれば当然低価格指向に走る。それなら今のままで十分ということだろう。しかし、ホテル側はそれでは厳しくなる。サイパン、グアムは今の供給量では、宿泊率は五〇%台という。そこで、ホテル側は稼働率を上げるために安値に走ることが心配されている。とくに、グレードの高いホテルが値を下げると、それ以下のグレードのホテルが連動して値を下げる。そうなると、パッケージ価格の低下に繋がってくる。その傾向は出ているという。旅行会社、航空会社、ホテルそれぞれが適正価格で利益が上げることが理想だが、なかなかそうはならないところに難しさがある。下期は今のところは好調だが、年末年始はコンピューター二〇〇〇年(Y2K)問題を控えて、まだまだ不透明な部分が大きい。欧州線など需要が相当減退しそうだ。航空会社は燃料の高騰を円高で相殺できず、来年度上期から値上げする意向を強めている。これをパッケージ価格に反映できるかどうか。適正利潤を求めるなら値上げするしかない。(石原)
政治と羽田国際化(99年11月1日号)
自自公政権は強力である。第二次小渕内閣がスタートして直後に、候補地の選定作業がなかなか進まない首都圏第三空港をメガフロート工法で建設することをぶち上げたと思ったら、今度は羽田空港の夜間・早朝の国際化を運輸省に検討するように指示した。その都度、運輸省は対応に大忙しのようだ。羽田の国際化は、新C滑走路が供用した昨年から論議が高まった。とくに、新C滑走路の供用で羽田が二四時間運用可能な空港となったことが引き金となり、昨年九月には「特例」として地元大田区の団体が企画した羽田―ホノルルチャーター便の運航が実現した。これに勢いを得て、地元若手議員が来年三月の新B滑走路供用開始に伴い、羽田―ソウル線の国際定期便開設構想を進めていることが明らかとなり、これが日韓W杯実務者レベルの会合や済州島で開かれた日韓閣僚会議で採り上げられた羽田―ソウルシャトル便の運航検討へと繋がっていく。羽田国際化について運輸省は、昨年九月に岩村航空局長が「新B滑走路が供用開始しても国内線だけで満杯になり、仮にソウル線を開設すれば、一部の国内線を閉鎖しなければならない」と説明、また「羽田から国際線を運航する場合には機体重量が増加し、低高度で飛行する距離が長くなり、騒音の問題が発生する」と述べ、総合的な議論の必要性を強調していた。この時は、成田空港の暫定滑走路案は明らかにされていなかった。暫定滑走路計画がなければ、羽田の国際化を求める声はもっと高まったと思う。暫定滑走路計画は既に航空局に変更認可を申請、公聴会も開催され、11月の認可、年内の着工が有力視されている。二階運輸大臣は「羽田の国際化検討は暫定滑走路が着工してから」と釘を差している。成田の暫定滑走路はB767程度しか運航できないなどの制約はあるが、待ちに待った二本目滑走路である。また、海外旅行需要が冷え込んでいる現状では、羽田の国際化よりも関空をはじめとする首都圏以外の国際路線をどうするかが先決ではないか。空港は政治の道具ではない。(石原) |